活動理念
このページでは、なぜ当事務所が企業に対して弁護士による従業員支援プログラム(EAP)を提供するのかということと、その背景にある企業の目的・使命や企業経営者のあり方について、当事務所の代表である下迫田浩司が考えていることを述べます。
当事務所が従業員支援をする理由
働く人が気軽に弁護士に相談できるようにしたい
企業に雇われて働く人は、自分の身体の健康というプライベートなことに関しては、企業を通じて健康診断などを受けていますし、産業医が選任されている会社もあります。
ところが、働く人が自分のプライベートな法律問題に巻き込まれて弁護士という専門家に相談したいとき、多くの場合、自力で弁護士を探さざるを得ません。そして、自力で弁護士を探すというのは、結構ハードルが高いのが現状です。
当事務所は、働く人の職場環境や福利厚生などがもっと良くなる社会を望んでいますので、働く人がプライベートな問題で気軽に弁護士に相談できるように、弁護士による従業員支援をしています。
働く人(従業員)を大切にする企業を応援したい
残念ながら、働く人(従業員)を大切にしているように見える企業は、今のところ必ずしも多くないと思っています。そうした中で、働く人を大切にしている企業(経営者)は、ぜひとも当事務所が応援したい企業です。
正直なところ、弁護士による従業員支援というのは、当事務所にとって結構な労力を要する活動ではありますが、働く人を大切にする企業にますます発展してほしいというのが当事務所の願いですので、多少無理をしても、頑張って応援したいのです。
企業の目的は何か?
当事務所が従業員支援をすることの背景にある考え方について、述べておきます。
企業の目的は、利益の追求か?
企業の目的・使命(以下、単に「目的」といいます。)は、利益(利潤)を追求することにある、という考え方があります。しかし、利益追求自体が目的というのはおかしな話です。いったい何のために利益を追求するというのでしょうか。その先には、何らかの目的があるはずです。
企業はなぜ存在するのかと言えば、顧客や社会に良いことをもたらすために存在すると思います。分かりやすく言えば、「世のため人のため」になることをすることが企業の目的だと思います。
お金のやり繰りに苦労し、倒産の危機も何度も経験して、長年身を切る思いでガムシャラに働いて何とか経営を成り立たせてきた中小零細企業の経営者の方からすると、「そんなのは建前で、キレイごとに過ぎない」と感じられるかも知れません。でも、なぜそのような中小零細企業が危機を乗り越えて何とか存続しているかといえば、やはり「世のため人のため」になっているからこそお客さまの支持を得て、生き長らえてきたのだと思います。
利益とは何か?
では、利益とは何でしょうか。利益は、企業が目的を果たすために「制約」となるもの(制約要因)だと思います。利益を上げないと、企業が世のため人のために貢献するという目的を果たし続けることができないからです。
つまり、企業は、利益を上げなければならないという「制約」(手かせ足かせ)のもとで、目的を果たしていくということです。
企業が利益を気にせずに目的を果たしていければ楽なのですが、残念ながら利益を上げないと存続していけませんので、この利益という制約要因は「絶対に必要なもの」です。(なお、もう一つの普遍的な制約要因として、「(有限の)時間」という制約要因があります。)
利益は「目的」ではなくて「絶対に必要なもの」というのは、人間にとっての水にたとえると分かりやすいと思います。人間が生きていくために、水を飲むこと(水分を摂ること)は絶対に必要なことです。しかし、水を飲むことが人生の目的という人はいません。
利益は、企業の目的を果たしていく上での「制約」であって「目的」ではありませんので、「利益の最大化」を図ろうとすることは、ナンセンスです。人間が生きていくために水を飲むことが絶対に必要なことだからと言って、水を飲む量の最大化を目指す人がいないのと同様です。
従業員の幸せ
「企業の目的は、利益の追求ではない」ということは、多くの人々が容易に理解し納得することだと思います。
ただ、企業の目的が、従業員を幸せにすることか、それとも、顧客を幸せにすることか、という点については、非常に悩む経営者の方々が多いのではないかと思います。私も、大いに悩みました。
もともと、私は、P.F.ドラッカー(Peter F. Drucker)の本をたくさん読んできましたので、企業の目的は、従業員ではなく顧客を幸せにすることだ、と何の疑問もなく考えていました。
しかし、「人を大切にする経営学会会長」の坂本光司教授(法政大学大学院政策創造研究科教授)の本を読んで、異なる考え方を知りました。坂本教授は、企業の目的・使命は「企業に関係するすべての人々の幸せの追求、実現」である、と断言します。そして、次の順番で重要だと言います。
①社員(従業員)とその家族
②社外社員とその家族
③現在顧客と未来顧客
④地域住民(とりわけ障がい者など社会的弱者)
⑤出資者(株主)
私は、初めてこれを読んだとき、特に①と②に感銘を受けました。「顧客第1主義」に対して、坂本教授は「従業員第1主義」を唱えているのです。しかも、従業員だけではなく、従業員の家族も入っています。そして、「顧客第2主義」かと思えば、そうではなくて、「社外社員とその家族」が「社員とその家族」の次に優先されるべきと言うのです。「社外社員」というのは、外注先や下請企業や仕入先や協力企業の社員のことです。
従業員第1主義というのは、Hal F. Rosenbluth and Diane McFerrin Peters, The Customer Comes Second, 1992(ハル・ローゼンブルース、ダイアン・M・ピータース著、樫村志保訳『顧客第2主義 「超」成長企業の経営哲学』2003)などで既に唱えられていましたが、坂本教授の場合は「顧客第2主義」ではなく「顧客第3主義」で、「社外社員とその家族」を「第2」に持ってきた点が特に注目すべきところだと思います。実際、私自身、坂本教授のこの考え方を知ってから、日々の仕事において、「社外社員とその家族」の幸せを意識して行動するようにしています。
「社外社員」の幸せを「従業員」の幸せに準じて大切にし、また、従業員や社外社員の「家族」の幸せを従業員や社外社員の幸せに準じて大切にすることについては、全くその通りだと思いますので、ここでは「従業員とその家族」「社外社員とその家族」をまとめて「従業員」という言葉で代表させることにします。
その上で、「企業の目的が、従業員を幸せにすることか、それとも、顧客を幸せにすることか、という点に戻りますと、坂本教授のように「第1に従業員、第2に顧客」というのも非常に説得的に見えます。実際、「従業員を幸せにしなければ、顧客を幸せにすることはできない」というのは真実だと思います。
従業員の幸せは「企業の目的」か?
しかし、私は、従業員を幸せにすることは企業の目的ではないと考えます。「顧客の幸せ」と「従業員の幸せ」の両方ともが企業の目的という考え方もとりません。企業の目的は、決して従業員を幸せにすることではなく、自分たちが幸福な団体になることでもないと考えます。企業の目的は、あくまでも企業の外の世界に貢献すること、すなわち、顧客に満足してもらったり、社会に良い影響を与えたりすることだと考えます。
企業の目的が従業員を幸せにすることであると考えると、企業の「外」の世界に良い影響を与えているかどうかなど気にしない、極端な内向きの姿勢をつくる恐れがあると思います。企業の目的としての「従業員」志向は、容易に自己満足に堕落すると思います。
やはり、企業の目的としては、「顧客」志向こそが、時の試練に耐えてきた哲学であり、正鵠を得ていると思います。
従業員の幸せは「経営者の務め」
それでは、従業員の幸せはどうでもよいのでしょうか。そんなはずがありません。
私は、従業員を幸せにすることは、「企業の目的」ではなく、「経営者の務め」だと考えます。
従業員は企業の一員としてあくまでも企業の目的である顧客の満足や幸せを追求すべきだと考えます。そして、経営者は、従業員の満足や幸せを追求し、従業員が安心して顧客の満足や幸せを追求できるような環境を提供しなければならない、それが経営者の務め・責務の一つだと考えるのです(もちろん、顧客を満足させて顧客を幸せにするという「企業の目的」を果たせるようにすることも「経営者の務め」であると考えます)。
このように考えるに至ってはじめて、私は、従業員の幸せや顧客の幸せの位置づけがスッキリと整理できました。この考え方が即、行動指針にもなります。
私たちが応援したい企業
坂本光司教授ではなくP.F.ドラッカーの考え方をとる旨を述べましたが、実際には、そんなに大きく異なるものではないと思っています。
私は、「企業の目的は、第1に、従業員とその家族を幸せにすることだ」という坂本教授の考え方にも、愛着を感じます。他方、それと同時に、「企業の目的は顧客を幸せにすることで、従業員を幸せにすることは経営者の務めだ」というP.F.ドラッカーの考え方は、私の心に深く溶け込んでいます。
坂本光司教授のような考え方で従業員を大切にする経営者も大好きですし、P.F.ドラッカーのような考え方で従業員を大切にする経営者も大好きです。
いずれも「人を大切にする経営者」と言えると思います。
そのような経営者を応援したいと思っています。
しかし、企業の目的を利益の追求や金儲けであると考えている経営者に対しては、全く共感を持つことはできません。そのような経営者を応援するつもりは全くありません。そのような経営者のもとでは従業員(労働者)は幸せになりにくいと思います。そのような企業の顧問になるつもりは全くありませんので、そのような企業で労働紛争が起こったときは、私たちは労働者の側に立って労働者を応援したいと思います。
企業が社会的責任を果たすことも「経営者の務め」
従業員支援や従業員の幸せをどう位置づけるかという本稿のテーマとは少し離れますが、「企業の目的」を果たすこと及び従業員を幸せにすることと共に、企業が社会的責任を果たせるようにすることも「経営者の務め」であると考えますので、ここで述べておきます。
企業の社会的責任という場合、まず1つ目として、企業の活動が社会に与える影響につき経営者が責任を持ち、悪い影響を最小限にするということが大切だと考えます。企業が活動する限り(あるいは人間が生存する限り)、悪い影響を完全にゼロにするということは不可能または著しく困難だと思いますが、最小限にするか、できればなくすということです。「製品の生産に伴い工場で出る有害なガスを無害化して排出する」というような例が分かりやすいと思いますが、製造業に限らず、およそすべての企業が社会に悪影響を及ぼしうるので、すべての企業が考えるべき問題だと思います。そして、企業の活動が社会に与える悪影響については、いかなる疑いの余地もなく、経営者に責任があります。この責任を果たすことは、経営者の必須の務めであり、絶対に手を抜いたりおろそかにしてはならないと考えます。この責任を果たさずに、顧客満足や従業員満足を優先させてはならないと考えます。
企業の社会的責任として、もう1つ、企業自らの活動によって生じた問題ではない社会問題について取り組むことに対する責任が挙げられます。企業は、社会の中に生きる存在です。社会がなければ企業もありません。社会が破壊されてしまっては、企業も存在できなくなります。その意味で、企業は、自らの活動によって生じた問題ではない社会問題についても取り組むほうがよいと言えます。
ただ、経営者にとっての最大の責任は、自らの企業に対するもの、すなわち、自らの企業を機能させ、その目的とする貢献を果たさせることだと考えます。仮に経営者である社長が社会問題についてリーダー的な役割を果たしたとしても、自らの企業を不振に陥れたのでは無責任です。破産する企業は、望ましい雇用主ではなく、地域社会にとっても、良き隣人ではありません。明日の職場や働く者のための機会を生み出すこともできません。経営者が能力をわきまえずに、背負い切れない社会問題に取り組もうとするならば、直ちに問題を生じます。
そうは言っても、現在、社会も地球環境も破壊されつつあります。それぞれの経営者が、可能な範囲内で、企業自らの活動によって生じた問題ではない社会問題について取り組んでいくことが「経営者の務め」であると思います。
たとえば SDGs(Sustainable Development Goals)〔持続可能な開発目標〕は、その一環として、非常に素晴らしい目標だと思います。
ついでに言えば、そのような社会的責任を果たしている企業で働いている従業員は、その企業で働いていることを誇りに感じ、従業員の満足度や幸せ度がアップすると思います。
「企業の目的」と「経営者の務め」の整理
以上述べてきたことを整理しますと、次のようになります(「満足させること」と表現すべきか、「幸せにすること」と表現すべきかなど、個々の言葉について私自身いろいろ迷いがありますが、大枠は次の通りです)。
<企業の目的>
(一般的抽象的に言えば)顧客を満足させること
※具体的には、各企業によって、それぞれ特有の目的がある
<経営者の3つの務め>
①顧客を満足させるという企業の目的について、我が社の場合の「特有の」具体的な目的が何であるかを考え抜き、定義づけ、そして企業がその目的を果たせるようにすること
②従業員を幸せにすること
③企業が社会的責任を果たせるようにすること
なお、企業の目的とは別に、従業員一人ひとりは、企業で働くうえで、それぞれの目的を持っていることは当然です。一般的には、①生活の糧として賃金を得ること、②人格の展開を図る主要な場として自己実現を図ること、③社会や地域とつながるための主たる絆とすること、などだと思います。また、従業員だけでなく経営者も、個人としては、企業経営の目的や人生の目的を持っていることは当然です。
これらとは別に「企業(組織)そのものの目的」を論じたのが、上記の考察です。
※本稿で述べた「企業の目的」や「経営者の務め」に関する考え方は、私が一人で思いついたわけではなく、その多くをP.F.ドラッカーの著書に依拠しています。
そして、ここで述べた「企業」についての話は、すべて「堺オリーブ法律事務所」についても言えることです。ちなみに、堺オリーブ法律事務所の場合の特有の具体的な目的は、「お客さまが『安心感』と『満足感』を感じられる法的サービスを提供すること」です。
経営者が良い社会をつくる
私たちの社会は、商品やサービスの生産から、医療、社会保障、福祉、教育、新しい知識の探求、自然環境の保護に至るまで、企業やその他の組織(NPO法人や労働組合や政党や各種団体などすべての組織)に委ねられています。特に企業はその中心的な役割を担っています。
従業員を大切にし、顧客の満足や幸せを追求し、社会に良い影響を与える企業の経営者、「人を大切にする経営者」こそが、恐怖政治による専制やファシズムから人間の尊厳と自由を守り、より良い社会をつくる中心的な役割を果たすと思います。
そのような経営者を、心から応援したいと思います。